憧れ(5話)





                この広い隊舎の中に・・・今・・・私一人・・・。

                厳密に言えば・・・
                隊長を始め、上官の方々は数名いらっしゃるが・・・
                平隊員は、私一人・・・。

                皆、実戦演習に行ってしまった。


                私は弱い・・・。

                それは分かってるけど・・・
                何故、演習にさえ参加させてもらえないのだろうか・・・?


                今日の私の任務は・・・、倉庫の掃除・・・。


                「上の方の窓を、綺麗にしとけ」って、檜佐木副隊長が・・・・・・。



                演習どころか、書類整理にすら就かせてもらえない私だけど・・・


                でも・・・
                いつからだろうか・・・・・・?

                あー・・・、あの時だ。

                「阿散井副隊長に、書類を届けろ」って言われた・・・あの時から・・・

                檜佐木副隊長が直接私に、指示してくれるようになった。


                「ココの掃除をしろ、あそこの掃除をしろ」って・・・
                結局「掃除」しかさせてもらえないんだけど・・・

                毎日、檜佐木副隊長のお顔が見れて・・・
                」って呼んでもらえて・・・

                私は幸せ。



                「幸せ」と言えば・・・

                この間、檜佐木副隊長に夕食をご馳走になって・・・
                味なんて全然分からなかったけど・・・
                でも・・・、凄く美味しかった。

                何を話したかも、殆ど憶えてない・・・・。
                とにかく、頭の中が真っ白になっちゃって・・・。


                檜佐木副隊長の顔を、目線を違えず、真正面から見たのは
                これが初めて。

                私の真正面に座って・・・
                他の誰でもない、「私」だけに話しかけてくれている檜佐木副隊長。

                目と目が合ったりしちゃうと・・・
                心臓が「ドキン」ってして、何が何だか分からなくなっちゃって・・・。



                私は、檜佐木副隊長には、会った事もないのに・・・

                皆が話してる事を聞き
                絵の上手な人が書いてくれた、檜佐木副隊長の似顔絵を見て・・・
                それだけで、檜佐木副隊長に憧れ・・・

                周りや、自分に対しても、否定し続けているが・・・

                確かに、檜佐木副隊長に「恋」してきた。


                「好きだなんて、とんでもない・・・」って、言ってるけど・・・
                本当は、大好きだ。


                それが・・・
                顔を見れて・・・、言葉も交わす事が出来るようになって
                更に好きになった。


                だって・・・


                檜佐木副隊長・・・




                「素敵だもん。
                 凄く格好良い。
                 見れば見るほど・・・どんどん好きになっちゃうョ〜・・・。」




               誰が好きだって!?




                えっ!?


               (  が振り向くと、修兵が立っていた )


                檜佐木副隊長・・・?
                どーしてココに・・・?
                演習に出かけたのでは・・・??




               行く前に、寄ってみたんだ。
                の掃除も、任務だからな。
               俺には、全てを確認する義務がある。

               まだ何も始めてないじゃないか!?
               何してる?

               掃除だからって、気を抜いてるのか?

               他の奴らは、緊張感を持って、真剣に演習へ行ったんだぞ!

               なのに何だ!
                の、この体たらくは!?

               掃除するのに、「緊張感を持って命懸けでやれ」とは言わないが・・・
               真面目にやれ!

               男に現を抜かしてるとは、何事だ!

               阿散井にも、当分会うな。

               そんな浮かれた気持ちで居られては、周りが迷惑だ。




                ・・・・・・はい。

                申し訳ありませんでした・・・。



               (  が脚立を取りに、倉庫の奥の方へ行った )



                私・・・
                何やってるんだろぅ・・・
                任務中なのに・・・・・・。

                こんなんじゃ、演習に連れて行ってもらえる訳ない・・・。
                唯でさえ弱いのに・・・・・・。



               (  が脚立を抱え、戻ってきた )



                檜佐木副隊長・・・
                二度と気を抜いたり致しません。

                与えられた仕事に対して・・・
                精一杯真剣に取り組みます。

                九番隊隊員の自覚を持ち、任務に当たりますので・・・
                どうぞ、演習に向かわれて下さい。

                大事な演習前に、気を煩わせてしまって、申し訳ありませんでした。

                以後・・・気を付けます。



               (  が深々と頭を下げ、掃除を始めた )



                しっかりやらなきゃ・・・。

                私に出来る事は・・・コレだけなんだから・・・。


                あれ?
                どーしよう・・・、この窓高すぎて、届かない・・・。
                コレが一番高い脚立だったし・・・・・・。





                ・・・





                あっ、大丈夫です。
                脚立の下に、何か台を・・・
                今探してきます。



               (  が、台を探しに行った )





                ・・・・・・。
               お前が「その脚立」使っても、窓に届かない事・・・俺は知ってた。

               お前が困ってるところに俺が来て・・・
               手伝ってやるつもりだったんだ・・・・・・。

               なのに・・・
               ココへ来たと思ったら、いきなり・・・

               「 素敵 ・ 格好良い ・ 好きになる 」って、聞こえて・・・

               それって・・・阿散井の事なんだョな・・・?


               命令として「阿散井に会うな」なんて、言いたかねぇけど・・・

               会わせたくねぇ・・・。


               副隊長としてじゃなく・・・
               檜佐木修兵として言えりゃぁな〜・・・
               「阿散井に会わないでくれ」って・・・。


               何で、阿散井なんだョ?

               そんな素振り・・・今まで全くなかったじゃねぇか・・・。

               俺が見てきた限りでも、お前に男の影は見当たらなかったし・・・
               お前の周りの奴らに、探りいれてみたけど・・・
               「 は好きな人いない」って・・・。

               だから・・・俺は安心しきってた。

               そっとお前を見守り続けて・・・

               時が来たら・・・
               お前とちゃんと向き合おうと・・・
               俺の気持ちを、ぶつけてみようと思ってた・・・。





                あの・・・、檜佐木副隊長・・・?



               (  が台を持って、戻ってきた )



                私・・・ちゃんとやりますから・・・。
                皆待ってると思いますので・・・早く、演習の方へ・・・・・・。





               もういい。




                ・・・はっ?




               ココは、もういいから・・・、ついて来い。




                えっ・・・?




               ( 修兵が に背を向け、出入り口の方へ歩き出した )




                檜佐木副隊長・・・
                お願いですから・・・ちょっと待って下さい・・・。

                お願いします・・・。




               ん?




               ( 修兵が振り向くと、 が泣いていた )




                檜佐木副隊長・・・
                もう一度だけ、チャンスを下さい・・・。

                二度と先程のように、気を抜いたり致しません。

                お願いします・・・。

                精一杯努めます・・・。

                ですから・・・掃除・・・させて下さい・・・。

                「辞めろ」なんて・・・言わないで下さい・・・。

                私・・・まだココで・・・頑張りたいんです・・・。

                私なんて・・・ダメなのは、分かっています・・・。

                何の役にも立たない事も・・・・・・




               ( 修兵がゆっくり に歩み寄り、自らの手で の涙を拭った )




                檜佐木副隊長・・・?




               誰が辞めろと言った?




                えっ・・・?

                でも・・・「もういい」って・・・。

                掃除しか出来ない私に・・・「掃除はもういい」っていう事は・・・
                九番隊には、もう必要ないって・・・事ですョね・・・?




               ほら。



               ( 修兵が に、鍵を渡した )



               副官室の鍵だ。
               今日は、副官室の掃除をしてくれ。

               ココは・・・もういい。




                副官室って・・・




               俺のだ。

               阿散井のじゃねぇぞ。




                は・はい。

                檜佐木副隊長の副官室に入っても・・・いいんですか?




               あぁ。
                を、信用してる。
               俺も、成る丈早く帰るようにするから・・・適当にやっておいてくれ。




                ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




               どーした?




                今・・・・・・

                」って・・・・・・??




               えっ・・・?

               名前違ったか?




                い・いえ・・・、合ってますけど・・・・・・。




               俺から呼ばれたら嫌か・・・?




                そ・そんな事ありません。

                う・嬉しいっていうか・・・し・幸せっていうか・・・・・・

                あっ、な・何でもありません。
                もう二度と浮かれたりしないって、決めたのに・・・・・・。




                ・・・?




                は・はい。




               先に行け。
               ココは、俺が閉めて行く。




                はい。


               (  が走り去った )




               公私混同してるのは・・・俺の方だな・・・。


               ココの掃除なんて、させる気ねぇのに来させて・・・

               俺の副官室に行かせて・・・

                泣かせたのも俺で・・・

               泣いてる 見て、心がグラついたのも俺・・・だ。




               抱きしめそうになった・・・。


               「好きだ」って、言いそうになった・・・。




               今は、任務中なのに・・・
               一瞬、そんな事は吹っ飛んだ・・・。



               お前が愛しくて・・・。




               誰にも・・・渡したくなくて・・・。

                                                           To be continued          2007,1,25 up  

 

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